もし突然愛する人を失ったらあなたはその悲しみをどう克服しますか? 注目のアカデミー作品賞ノミネート作

いつも当たり前ように存在するとても愛しい人が突然消えてなくなる……そんな残酷で哀しいこと誰が想像できるでしょうか。それでもいつの世も哀しみは突然やってきます。今でも誰もがあの時のことは鮮明に覚えているでしょう。2001年9月11日アメリカ同時多発テロ。主人公オスカー少年は、そのテロで突然最愛の父を亡くします。ですが、オスカーはその現実をなかなか受け入れることができません。なぜなら、オスカーは世間の流れにあまり影響されない独自の世界観を持つ少年だからです。彼は彼にしかわからない感覚で父や母の存在をとらえています。

世の中怖いものばかりのオスカー


ストーリー中のオスカーの感覚は通常の感覚をもった少年と明らかに違います。秀でた才能を持ちながらも彼にとって世の中は怖いものだらけで心は落ち着く暇がありません。頼りにできるのは自分と家族のみ。彼が発する言葉、頭の中を駆け巡る思い、憤り、回想、行動、どれも彼が信念とするものばかりですが、序盤はそんなオスカー独特の感性がふんだんにちりばめられ、観る者をオスカーの世界観へとぐいぐい惹き込んでいきます。映画のタイトルは、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」ですが、この不思議な言葉の意味は原作者も明していないそうです。もしかしたらオスカー独自の感覚で表現された「ある何か」かもしれませんね。

オスカーに社会性を学ばせていた父トーマス


父親のトーマス(アカデミー賞受賞俳優トム・ハンクス)は、オスカーの一番の理解者であり支援者です。トーマスはオスカーの個性を認め、自分の研究時間を削ってまでオスカーとの時間つくり、母リンダ(アカデミー賞主演女優賞受賞女優サンドラ・ブロック)とともにオスカーを心から愛しました。また、トーマスはオスカー独自の感性を社会で上手に活かせるようオスカーにあらゆる課題を提案し、オスカーが社会と楽しく関わりながら人との社会性を学べるよう促しています。トーマスからの課題は、オスカーの五感をフルに刺激し、高揚させるものばかり。人生の楽しさや不思議さ、厳しさをオスカーは心の底から父トーマスと共有していたのです。

父との絆は特別だったゆえに傷ついているオスカー


そんな2人の絆は、母親であるリンダさえときに入り込めないほど。オスカーにとって父との絆は特別なものだったのです。特別だったから特別な分、父不在の哀しみはオスカーの心を深く傷つけていました。大好きな父の笑顔や肩をすくめる仕草が見られない絶望感。父の存在を確認できるものは、事件当日に残された父親の最後の声が入った留守番メッセージだけ。オスカーは何か思うことある度に、母に内緒で父の留守番電話メッセージを聞くのです。そんな中、オスカーは父のクローゼットの中からある一本の鍵を見つけます。その瞬間からオスカーの中で何かが変わり始めました。悲壮感溢れていた彼にとってその鍵は、留守番電話メッセージ以外に父の面影を追うことができる唯一の希望となったのです。

「謎の鍵」が彼の何を変えて行くのか?


中盤から終盤まで「謎の鍵」を中心に徐々に変化して行くオスカーの行動や心模様がテンポよく描かれて行きます。その行動がエスカレートする度に母にやるせない感情をぶつけてしまうオスカー。そんな不安定なオスカーを支えるのが、オスカーを優しく見守るおばあちゃまの存在。そして、おばあちゃまと一緒にオスカーを支える存在となるのが、突然おばあちゃまと一緒に暮らし始めたこれまた謎の老人「間借り人」。おばあちゃまはなぜか「怖い人だから近づいちゃダメ!」とオスカーに釘を刺します。が、ある日、不在のおばあちゃんを心配して訪ねたオスカーが隠れていた謎の老人を発見します。オスカーに見つけられてたじろぐ老人は驚くことに口がきけないのでした。

「間借り人」となぜか心通わすことができたオスカー


そんな老人に突然堰を切ったように自分の感情をぶつけるオスカー。その老人にオスカーはなぜか不思議な縁を感じ、老人もまた、オスカーに閉ざしていた心を開けたのです。老人はオスカーを手伝うことを申し出、オスカーは戸惑いながら老人の申し出を受け入れます。さあ、危なっかしい2人の奇妙でいて心温まる探検のスタートです。ここからオスカーの心の変化にますます拍車がかかります。観る者をハラハラさせたり、クスッと笑わせたり、ほぉ~と感心させたり、ジーンと感動させたり、オスカーの感情や行動ひとつひとつから目が離せなくなります。観ているあなたもいつの間にか老人と一緒にオスカーを応援していることに気づくでしょう。

「謎の鍵」の行方は?


果たして「謎の鍵」合う鍵穴は見つかるのでしょうか?見つかった時、オスカーは?父への思いは?残された母との絆は?なぞの老人の正体は?そして、『ものすごくうるさくてありえないほど近い』の意味は?

監督は「愛を読むひと」のスティーブン・ダルトリー、脚本は「フォレストガンプ/一期一会」のエリック・ロス。

2011年3月11日に日本を襲った東北大震災の哀しみとリンクするオスカーの心の哀しみと成長は、日本を元気づけようと頑張っている人々の心をきっと癒すでしょう。あなたも亡き後も無限に注がれる父トーマスの「愛」を感じつつ、オスカーの心の喪失から再生へと導かれる感動的な成長をぜひ劇場で見守ってみませんか?
(荒牧佳代)

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
2012年2月18日(土) 丸の内ピカデリー他 全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC

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