愛したら捨てられる? 大人になりたくない? すべての生きづらい人に刺さる演劇が上陸(PR)

何かと「生きづらさ」が話題になる現代。自由と豊かさの代償か、多くの人が「自分の心」に焦点を当てるようになり、幸せとは何なのか、自分はどう生きればいいのかを模索しているように思います。今秋、そんな悩める私たちに少なからずのヒントをくれそうな舞台がスペインより初上陸します。

目次

「母親」を期待される女性特有の“生きづらさ”とは


その作品とは、2015年11月21日より『フェスティバル/トーキョー15』で公演される 『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』。本作を率いるのは、スペイン人の演出家アンジェリカ・リデル。俳優であり詩人でもある彼女が「ネバーランド」や「ウェンディ」というポップな題材を限りなく深遠に創りあげます。本作の主人公は、ピーターパンのヒロインでもおなじみのウェンディ。
『地上に広がる大空』では、彼女はネバーランドに連れていかれ、そこで“永遠の子供”たちの母親的役割を託されます。世界中で愛される作品でありながら、原作は性差別や人種差別の観点から長らく批判されている側面も。リデルは、このウェンディに「女性の生きづらさ・哀しみ」を詩的に重ね合わせ、ひとつの舞台を作り上げています。
『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』を率いるスペイン人演出家アンジェリカ・リデル(C)前澤秀登
『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』を率いるスペイン人演出家アンジェリカ・リデル
(C)前澤秀登

この作品では、男性はある意味、永遠にピーターパンでいることが許される。でも、女性はそうじゃない。周りの期待に応えるべく自ら少女でいることを諦め、「母」の役割を担っていく。「他人をケアし、愛する母親になること」への無言の圧力は、女性特有の“生きづらさ”を生み出している大きな一因と言えるのではないか……ということを考えさせられます。

「ウェンディって2人いるの。いいウェンディと悪いウェンディ」「人のために何かやってますという人、あたし、信用しない。例えば母親」
――リデルが綴るそんな台詞の数々は、私たちが普段、当たり前だと思っている倫理感に真正面から疑問を投げかけてきます。「母親になるのは当然のこと、それこそが女の喜び」だと反感を覚える人もいるかもしれません。しかし、心の中にある思いは本当にそれだけなのか? 周囲の価値観に縛られ、何かと窮屈な思いをしがちな日本女性たちに、リデルのメッセージは何かしらのカタルシスを与えてくれるような気もしたのでした。

 「老いる恐怖」「見捨てられる恐怖」…。あなたの“心の足元”も揺らぐかも!?


世の中には、あえて考えずに生きた方が楽なこともある。「中二病」なんて言葉もありますが、「生きづらいな」と感じる自分がいても、大人になる過程で、多くの人はそれを“なんとか”していきますよね。理性でコントロールする術を身につける人もいれば、周囲から浮くことを恐れて“うやむや”にする人もいる。しかし、リデルはこんな風に言ってのけます。「この世を理解するのを否定する人、私好きよ」――と。これまで、私は現実とのバランスを探って生きることは「強さ」だと思ってきましたが、そのご都合主義に魂からの”くそくらえ”を投げつけられたようで(笑)、作品鑑賞後、心の足元がぐらりと揺らいでしまったのでした……。

「老いることは、愛されなくなること」。そう断言するリデルは、「加齢」も痛烈に否定しています。母親にならずに生きてきた49歳のリデルですが、「愛するとすぐ、あたしは見捨てられたと感じる」なんて台詞を生み出しているのは、まぎれもなく彼女の中の“内なる少女”。絶望と哀しみのなかで、自分らしく生きる道=『地上に広がる大空』を探す。彼女は今もその真っ只中にいるのかもしれません。
『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』(C)RicardoCarrillodeAlbornoz
『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』
(C)RicardoCarrillodeAlbornoz

海外では、賞賛の声が飛び交う最も評価の高い作品である一方、「これ以上は見られない」と途中退席者も出るほど、賛否が真っ二つに割れた本作品。真の幸福は、「この世に迎合すること」と「心のままに生きること」のどちらにあるのか。彼女が人生をかけて紡ぎ出すメッセージは、日本の皆さんにどう刺さるでしょうか。
『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』(C)RicardoCarrillodeAlbornoz
『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』
(C)RicardoCarrillodeAlbornoz

豊かな楽曲の生演奏や舞踏シーンも大きな見どころ!


音楽や舞踏シーンも大きな見どころのひとつ。韓国の音楽家チョ・ヨン・ムクの映画音楽に惚れ込んで直談判に向かったり、実際に上海の街角で踊っていた社交ダンサーをスカウトして連れてきたりと、リデルのこだわりは細部にまで最大限発揮されています。特に独特の異国の雰囲気を醸し出す音楽(生演奏)は聞き応え十分! 再現するのが困難そうな舞台美術も味わい深く、作品に散りばめられた“要素”を見ているだけでも楽しいので、ライトな気持ちで鑑賞してみるのも大いにアリだと思います。

ちなみに、リデルは夏木マリさんのような“かっこいい女”のオーラを持った方だな……と感じたのですが、お二人は演劇人として共感しあい、既に交流もされているのだとか。「心の闇をあぶりだす作品」という共通点で言えば、鬼才ラース・フォン・トリアー監督の『ニンフォマニアック』などが好きな方には間違いなく響くでしょうし、「詩的表現に唸らされる」という意味では、三島由紀夫やジョルジュ・バタイユなどの文学ファンにも通じるものがあるかも。

リデルのメッセージに真正面から向き合い、物語にとことん没入して楽しむもよし、欧米で大きな話題になった作品の初上陸を“好奇心”で体験してみるもよし。このような尖鋭的な作品を生で観られる機会は東京でも滅多にないので、ぜひこの機会をお見逃しなく! 舞台『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』は8回目を迎える『フェスティバル/トーキョー15』の期間中、11/21(土)〜23(祝)、3日間の上演です。
(外山ゆひら)

この記事を書いたライター

外山ゆひら
対人関係、心や生き方に関する記事執筆が中心のフリーランスライター。読売新聞が運営する「発言小町」の相談コラムや、「恋活小町」を担当する。文芸、カルチャー、エンターテイメント方面を日々ウォッチしている。

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