2019年度 第14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者発表

多様な分野から世界初の功績を誇る 物質・生命科学分野 受賞者4名


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世界最大の化粧品会社ロレアルグループ(本社:パリ)の日本法人である日本ロレアル株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:ジェローム・ブリュア)は、 2019年7月4日(木)、フランス大使公邸にて、2019年度 第14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の受賞者発表および授賞式を実施しました。

●「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」は、日本の若手女性科学者が、国内の教育・研究機関で研究活動を継続 できるよう奨励することを目的として、2005 年に日本ロレアルが日本ユネスコ国内委員会との協力のもと創設しました。物質科学または生命科学の博士後期課程に在籍または、同課程に進学予定の女性科学者を対象に、各分野からそれぞれ 2 名 (計4名)決定し、奨学金 100 万円が贈られます。昨年までに51名の若手女性科学者が受賞しており、受賞以降は国内外で研究をはじめ、結婚・出産、次世代の育成など多様なキャリアを切り拓いています。

本年度の受賞者は下記のとおりです。 (詳細は、下記プロフィールをご参照ください)
物質科学
藤森 詩織(ふじもり・しおり)(27歳)
2019 年4月~ 産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 特別研究員(京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 卒)
受賞理由:世界で初めてベンゼンのアニオンの炭素を重い元素に置き換えた「重いフェニルアニオン」の合成と性質を解明

渡部 花奈子(わたなべ・かなこ)(28歳)
2019 年4月~ 東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 助教(東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 卒)
受賞理由:世界で初めて外部刺激により構造が自在に変化する新しい微粒子材料を開発 

生命科学
岡田 萌子(おかだ・もえこ)(27歳)
神戸大学大学院 農学研究科 生命機能科学専攻
受賞理由:野生コムギとマカロニコムギの雑種が育たない原因遺伝子の特定と機能の解明に向けた研究実績を評価

岡畑 美咲(おかはた・みさき)(26歳)
甲南大学 自然科学研究科 生体調節学
受賞理由:環境の酸素情報が温度受容ニューロンの神経活動を制御するメカニズムを解明
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2019年「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者 集合写真

●ロレアルグループ、世界規模で女性科学者を支援
科学の分野では「ガラスの天井」が依然として存在しており、世界的に研究者のうち女性の割合はわずか29%、アカデミックな機関で上席の職位に就いている女性は11%に留まり、女性ノーベル賞受賞者は3%に留まります。1998年以来、ロレアル財団はユネスコとともに「世界は科学を必要としており、科学は女性を必要としている」という確固たる信念のもと、女性科学者の地位向上に注力してきました。国際選考委員会により、目覚しい業績を挙げた世界の優れた女性科学者を表彰する「ロレアル-ユネスコ女性科学賞」ならびに、若手女性科学者(博士課程または博士研究員)の研究を奨励する「ロレアル-ユネスコ女性科学賞国際新人賞」を通じて、これまでに世界から3,100人以上の女性科学者を支援しています。

日本の女性科学者、世界的に高い評価: 20192名が受賞
2019「ロレアル-ユネスコ女性科学賞」には日本を代表する化学者 川合 眞紀自然科学研究機構分子科学研究所所長東京大学名誉教授日本化学会会長)が原子レベルで分子を操作する画期的な研究成果によりナノテクノロジーの基盤の確立に貢献した功績が高く評価され、日本からは6人目の受賞となります。また、同年の「ロレアル-ユネスコ女性科学賞国際新人賞」には野元 美佳(名古屋大学 遺伝子実験施設 助教2018「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞受賞が試験管内で人工的にタンパク質を合成するシステムの開発と世界で初めて同手法を用いた植物免疫応答の解析への貢献により、当部門で4人目の日本人受賞者となります。

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ロレアルグループについて (https://www.loreal.com/)
1909年にパリで化学者ウージェンヌ・シュエレールによって設立され、世界150 カ国・地域で事業を展開し、86,000人の従業員を有する世界最大の化粧品会社です。「ランコム」「シュウ ウエムラ」「キールズ」「イヴ・サンローラン」「ロレアル パリ」「ロレアル プロフェッショナル」   「メイベリン ニューヨーク」など、34ブランドをグローバル規模で展開しています。創立当初から研究活動を最重要視し、化粧品科学を一つの独立した科学分野へと育て上げてきました。また、女性研究者を積極的に登用しており、3,885名の研究者のうち、女性が占める割合は70%に上ります。
日本ロレアルについて (http://www.nihon-loreal.jp/)
1963年から事業を開始し、1996年に日本法人である日本ロレアル株式会社が設立されました。2,500人の従業員を有し、化粧品の輸入、製造、販売、マーケティングを行っています。現在、上記のブランドを含め18のブランドを取り扱っています。1983年に日本に研究開発拠点を置き、現在、日本ロレアルリサーチ&イノベーションセンター(川崎市・溝の口)として、日本をはじめ、アジアの研究開発の中心的な役割を担っています。200名以上の研究者を有し、うち女性研究者は56%を占めています。2005年から生命・物質科学分野における博士後期課程在籍または進学予定の若手女性科学者を支援する奨学金 「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を推進しています。2018年を含め、51名の若手女性科学者が受賞しています。日本ロレアル電子版サステナビリティレポート(www.nihon-loreal.jp)では、「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」をはじめ、長期的視野に立って推進しているより良い環境や社会のためのさまざまな取り組みを紹介しています。
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ユネスコについて (https://en.unesco.org/)
ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、諸国民の教育、科学及び文化の協力と交流を通じた国際平和と人類の共通の 福祉の促進を目的とした国際連合の専門機関です。本部はフランス・パリにあり、2014年4月現在の加盟国数は195カ国です。科学においては、技術、イノベーションや教育の発展に注力しているほか、海洋資源や生物多様性の保全、科学的知識に基づく気候変動や自然災害への対応策に取り組んでいます。とりわけ研究において、あらゆる人種差別の撤廃と男女共同参画を推進しています。
日本ユネスコ国内委員会について (http://www.mext.go.jp/unesco/index.htm)
日本では「ユネスコ活動に関する法律」に基づき、文部科学省に置かれる特別の機関として日本ユネスコ国内委員会が設置 されています。日本ユネスコ国内委員会は、教育、科学、文化等の各分野を代表する60名以内の委員で構成され、我が国におけるユネスコ活動の基本方針の策定、ユネスコ活動に関する助言、企画、連絡及び調査等を行っています。日本ユネスコ国内委員会事務局は文部科学省に置かれ、文部科学省国際統括官が日本ユネスコ国内委員会事務総長を務めています。

2019年度 14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」物質科学分野
藤森 詩織(ふじもり・しおり)


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2019年度 第14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者発表の4枚目の画像

"科学とは、未来への挑戦”

<社会と研究の接点> 
高周期典型元素を組み込んだ芳香族化合物の合成に成功し、より高効率な電子材料など、次世代機能性分子の開拓に貢献
研究内容>タイトル: 世界で初めてベンゼンのアニオンの炭素を重い元素に置き換えた「重いフェニルアニオン」の合成と性質を解明

人類にとって非常に重要な化学の分野において、「有機化学」は炭素、窒素、酸素など第二周期の元素を中心とした学問として発展し、医薬品、高分子、電子材料など身の周りで広く利用されてきました。一方近年では、周期表においてさらに下の周期の元素である「高周期典型元素」の持つ特性が注目されています。例として炭素(C)の一つ下の「ケイ素(Si)」に注目します。ケイ素を含む有機化合物は、炭素のみの化合物と比べ、高い耐熱性・耐久性となめらかさ・しなやかさを兼ね備えているため、自動車の材料や潤滑油など身近なものに利用されています。このようにケイ素をはじめとする高周期典型元素を含む有機化合物の実用化が検討されていますが、この分野は未だ発展途上であり、今後の研究展開に大きな可能性を秘めています。
本研究では、六角形の分子であるベンゼンのアニオンの炭素を高周期典型元素であるゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)に置き換えた「重いフェニルアニオン」を、従来にない安定化の方法で合成することに世界で初めて成功しました。このような高周期元素を含む分子は、炭素のみで構成される分子と比べて波長の長い光を吸収するなどの特徴があるため、太陽電池開発などの分野で、新しい機能や高い効率をもつ材料を提供することが期待されます。

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2019年度 第14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者発表の6枚目の画像


2019年度 14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」物質科学分野
渡部 花奈子(わたなべ・かなこ)


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2019年度 第14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者発表の8枚目の画像



”科学とは、私たちの生活にあるもの全て”

<社会と研究の接点> 
与える刺激の有無や強弱を操作することで特性が自在に変化する、新しい微粒子材料の開発に貢献
研究内容>タイトル: 世界で初めて外部刺激により構造が自在に変化する新しい微粒子材料を開発 

ガラスなどミリメートル以上の大きな材料(バルク材料)は安定で使いやすく、私たちの日常生活において広く利用されています。材料をナノメートルスケールまで小さくすると、バルク材料には現れない多様な特性が現れます。例えば、金をナノサイズまで小さくした金ナノ微粒子は、金色ではなく赤色や青色を示します。しかしながら、小さな微粒子(コロイドとも呼ばれる)は非常に不安定であるため、実用化が難しいといった課題があります。このことから、安定で扱いやすい微粒子材料の開発が求められています。
本研究の成果は、大きく分けて二つあります。まず、卵のような形の微粒子(卵型粒子)を集めた新しい材料構造を提案しました。黄身に相当する微粒子を、殻に相当するシェルの中に閉じ込めることで安定化し、微粒子の特性を最大限発揮させることに成功しました。次に、閉じ込めた微粒子が液体を充填したシェルの中で自由に動くことを証明しました。この運動性を利用し、卵型粒子の集合体に電気などの外的な刺激を与えることで、閉じ込めた微粒子の運動や配置を殻の中で自在に制御することを世界で初めて成功しました。一般的に一つの材料から得られる特性は一つに限定されています。これに対し卵型粒子の集合体であれば、与える刺激の種類や強弱によって色が多様に変化するなど、一つの材料から複数の特性が得られる画期的な材料が開発できると考えています。

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2019年度 14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」―生命科学分野
岡田 萌子(おかだ・もえこ)

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2019年度 第14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者発表の11枚目の画像



"科学とは、世界の真理を表現するもの”

<社会と研究の接点>
地球温暖化に対抗する、強くて美味しいコムギの育種に貢献
研究内容>タイトル:野生コムギとマカロニコムギの雑種が育たない原因遺伝子の特定と機能を解明

コムギはイネやトウモロコシと並ぶ世界三大穀類で、世界人口の全消費カロリーの20%がコムギから摂取されています。日本でもコムギはたくさん消費されていますが、日本では梅雨の影響で品質の良いコムギを育てることが難しく、自給率が低い状況が続いています。今後、地球温暖化や人口増加がますます進行すると予想されるので、病気やストレスに強く、たくさん収穫ができるコムギを育成することがさらに重要になります。
コムギの品種改良には野生コムギとパスタに使うマカロニコムギを掛け合わせて作った合成コムギがよく使用されます。しかし、野生コムギの一種(Aegilops umbellulata; エギロプス ウンベルラータ)とマカロニコムギを掛け合わせると、約半分の雑種がうまく育たない「雑種生育異常」という現象が起こります。雑種がうまく育たないと品種改良ができないので、野生コムギの良さを最大限に利用できません。本研究では、野生コムギの良さを効率良く、最大限に品種改良に利用することを目指して、雑種生育異常の原因遺伝子やその機能の解明を試みました。
バイオインフォマティクスを用いた最先端の解析の結果、雑種生育異常には、これまでにコムギでは報告がない新規原因遺伝子(Gcd1)が関わっていることがわかりました。また、この原因遺伝子の大まかな染色体上の位置を推定することに成功し、原因遺伝子が野生コムギの6番染色体にあることを世界で初めて示しました。今後は、どのような遺伝子が、どこにどう悪さをすることで雑種がうまく育たなくなっているのかを明らかにし、野生コムギの良さを効率的に品種改良に利用することを目指します。これにより、日本のコムギの自給率向上をはじめ、気候変動に耐え、収穫量の多い、世界の食糧危機に対抗できる「スーパーコムギ」の育成も期待できます。

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2019年度 14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」―生命科学分野
岡畑 美咲(おかはた・みさき)
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2019年度 第14回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者発表の14枚目の画像

”科学とは、世界中で初めて自分が見ることができる世界”

<社会と研究の接点> 
複数の環境情報を統合・区別する神経回路の解明に貢献
研究内容>タイトル: 環境の酸素情報が温度受容ニューロンの神経活動を制御するメカニズムを解明

環境には温度や匂い物質、視覚情報などたくさんの情報があります。ヒトを含む動物は、普段感じているたくさんの環境情報を脳の中で統合・区別することで、体を健康に保っています。一方で、脳・神経科学において、脳内の神経情報をどのように統合・区別しているかについては、ほとんど解明されていません。
ヒトの脳は約1,000億個の神経細胞で構成されており、非常に複雑であるため、本研究ではヒトと同じ遺伝子を多く有し、神経の数が少ない体長1mmほどの動物である線虫C. エレガンスを使い、線虫が示す温度に対する反応を指標に神経系を解析しています。
今回、ヒトにおいて心臓病などに関わるカリウムチャネルに相当する線虫の遺伝子が、新しい温度環境に反応する現象に関わっており、この現象に酸素情報が影響を与えていることが分かりました。このカリウムチャネルが温度に対する反応を制御している温度受容ニューロンは酸素受容ニューロンと神経回路を作っており、酸素情報が温度受容ニューロンの神経活動を調節していることが分かりました。これらのことから、「温度」と「酸素」という質的に異なる2つの情報の統合に関わる神経回路が見つかりました。この神経回路は、複雑な神経情報を脳内で統合や区別する仕組みを研究するためのシンプルな解析モデルになると考えられます。
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