いるわけないでしょ。海に伝わる妖怪の話 【LINE怖い話 #100/肝試し準備 2】
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LINE怖い話
友達からの奇妙なLINE、知らない人からの不思議なLINE……。普段何気なく使っているメッセージアプリに、違和感を覚えたことはありませんか?
それはもしかすると、人ならざるものが関係しているかもしれません。
連載「LINE怖い話」では、LINEにまつわる怖い話をお届けします。
友人や顧問の先生と一緒に、夏季合宿の下見のため海辺の旅館に来ていた茜さん。
しかし移動中のバスで酔ってしまい、海の下見を友人たちに任せて旅館で1人休むことに。
窓から海を眺めつつ、自身の体調回復のため安静にしている茜さん。
「失礼いたします」
そこへ、旅館の女将さんがやってきました。手には1人分の布団が抱えられています。
「乗り物酔いされているとのことでしたので、お布団をお持ちいたしました。こちらでお休みください」
「あ、ありがとうございます……!」
女将さんの配慮に感謝し、ありがたく布団を使わせてもらうことにした茜さん。
畳の上に布団を敷いてもらうと、すぐその上に寝転がりました。
「ありがとうございます。少しは楽になりそうです」
「いえ、何かあればお申し付け下さいね。すぐにご対応いたしますので」
深々と頭を下げる女将さん。そのお言葉に甘えようと思った茜さんは、気分転換のために少し話をしてほしいとお願いしました。
「ええ、構いませんよ」
オフシーズンで時間的余裕があるとのことで、快く付き合ってくれる女将さん。
「先生からお話は伺っておりますよ。何でも合宿のために当旅館をご使用していただくとか」
「はい、8月にまた来ますので、その時もよろしくお願いします。私、多分またこうやってダウンしてると思うので」
「かしこりました。お任せください」
冗談交じりに笑いながら言う茜さんに、女将さんも笑いながら返しました。
「水泳部の合宿と伺いましたが、お客様も水泳がお得意なのでしょうか?」
「はい、私は遠泳が得意なタイプなので、短距離でタイムを競うのは苦手ですが……でも、自分のペースでなら一日中泳いでいられる自信があります」
「それは凄い!ですが、ここの海岸は夜間遊泳禁止なので途中で切り上げて下さいね。でないと海坊主にさらわれますよ」
“海坊主にさらわれる”という言葉を聞き、茜さんは首を傾げます。
「海坊主って……あの妖怪の?」
海坊主とは、海に現れて船を沈めるという巨人のような妖怪。
多くは夜に現れ、人間を海に引きずり込むと伝えられています。
「はい。ここら一帯には海坊主の伝説がございまして。魅入られたものは夜の海に引きずり込まれてしまうのだとか」
真剣に話す女将さんに「今の時代に海坊主なんて迷信、信じる人なんていないよ」と思った茜さんでしたが、女将さんなりに“夜の海は危険である”ということを伝えたかったのかな、と思った茜さんは言葉を飲み込み、
「あはは、分かりました。気を付けることにします」
笑いながらそう答えました。
しばらく談笑したのち、女将さんは次の仕事があるのでと言い部屋から退室。
1人残った茜さんは、布団の上で天井を見つめながら考えていました。
「海坊主か……」
茜さんは呟いた後、スマートフォンでLINE画面を開き梓さんたちにメッセージを送りました。
合宿中のレクリエーションとして企画している肝試しの設定ネタとして使えると考えた3人。
しかし、肝試しで使用するのは旅館の裏から山へ続く道で行う予定のため、海坊主ネタは使えるかどうか微妙なところです。
ともかく、肝試しに関しては3人集まった際に練っていこうという話になり、LINE会話は終了しました。
「さすがに山道に海坊主はないよねー……」
自分で海坊主ネタを提供しましたが、後々になって自分でツッコミを入れる茜さん。
敷いてもらった布団の上で横になり、肝試しの準備はどうしたものかと考えていると、少しずつまぶたが重くなってきました。
「……すぅ」
そして、静かにゆっくりと寝息を立て始めた茜さん。
青い海がオレンジ色に染まるまで、熟睡して目を覚ますことはありませんでした。
その途中、水平線の先に再び黒い“何か”が現れたことにも、当然気づくことはありませんでした……。
連載「LINE怖い話」は毎日更新中です。
(洞 怜子)
※この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは一切関係がありません
それはもしかすると、人ならざるものが関係しているかもしれません。
連載「LINE怖い話」では、LINEにまつわる怖い話をお届けします。
「肝試し準備」その2
友人や顧問の先生と一緒に、夏季合宿の下見のため海辺の旅館に来ていた茜さん。
しかし移動中のバスで酔ってしまい、海の下見を友人たちに任せて旅館で1人休むことに。
窓から海を眺めつつ、自身の体調回復のため安静にしている茜さん。
「失礼いたします」
そこへ、旅館の女将さんがやってきました。手には1人分の布団が抱えられています。
「乗り物酔いされているとのことでしたので、お布団をお持ちいたしました。こちらでお休みください」
「あ、ありがとうございます……!」
女将さんの配慮に感謝し、ありがたく布団を使わせてもらうことにした茜さん。
畳の上に布団を敷いてもらうと、すぐその上に寝転がりました。
「ありがとうございます。少しは楽になりそうです」
「いえ、何かあればお申し付け下さいね。すぐにご対応いたしますので」
深々と頭を下げる女将さん。そのお言葉に甘えようと思った茜さんは、気分転換のために少し話をしてほしいとお願いしました。
「ええ、構いませんよ」
オフシーズンで時間的余裕があるとのことで、快く付き合ってくれる女将さん。
「先生からお話は伺っておりますよ。何でも合宿のために当旅館をご使用していただくとか」
「はい、8月にまた来ますので、その時もよろしくお願いします。私、多分またこうやってダウンしてると思うので」
「かしこりました。お任せください」
冗談交じりに笑いながら言う茜さんに、女将さんも笑いながら返しました。
「水泳部の合宿と伺いましたが、お客様も水泳がお得意なのでしょうか?」
「はい、私は遠泳が得意なタイプなので、短距離でタイムを競うのは苦手ですが……でも、自分のペースでなら一日中泳いでいられる自信があります」
「それは凄い!ですが、ここの海岸は夜間遊泳禁止なので途中で切り上げて下さいね。でないと海坊主にさらわれますよ」
“海坊主にさらわれる”という言葉を聞き、茜さんは首を傾げます。
「海坊主って……あの妖怪の?」
海坊主とは、海に現れて船を沈めるという巨人のような妖怪。
多くは夜に現れ、人間を海に引きずり込むと伝えられています。
「はい。ここら一帯には海坊主の伝説がございまして。魅入られたものは夜の海に引きずり込まれてしまうのだとか」
真剣に話す女将さんに「今の時代に海坊主なんて迷信、信じる人なんていないよ」と思った茜さんでしたが、女将さんなりに“夜の海は危険である”ということを伝えたかったのかな、と思った茜さんは言葉を飲み込み、
「あはは、分かりました。気を付けることにします」
笑いながらそう答えました。
しばらく談笑したのち、女将さんは次の仕事があるのでと言い部屋から退室。
1人残った茜さんは、布団の上で天井を見つめながら考えていました。
「海坊主か……」
茜さんは呟いた後、スマートフォンでLINE画面を開き梓さんたちにメッセージを送りました。
合宿中のレクリエーションとして企画している肝試しの設定ネタとして使えると考えた3人。
しかし、肝試しで使用するのは旅館の裏から山へ続く道で行う予定のため、海坊主ネタは使えるかどうか微妙なところです。
ともかく、肝試しに関しては3人集まった際に練っていこうという話になり、LINE会話は終了しました。
「さすがに山道に海坊主はないよねー……」
自分で海坊主ネタを提供しましたが、後々になって自分でツッコミを入れる茜さん。
敷いてもらった布団の上で横になり、肝試しの準備はどうしたものかと考えていると、少しずつまぶたが重くなってきました。
「……すぅ」
そして、静かにゆっくりと寝息を立て始めた茜さん。
青い海がオレンジ色に染まるまで、熟睡して目を覚ますことはありませんでした。
その途中、水平線の先に再び黒い“何か”が現れたことにも、当然気づくことはありませんでした……。
連載「LINE怖い話」は毎日更新中です。
(洞 怜子)
※この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは一切関係がありません
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この記事を書いたライター
洞 怜子
怖い話を集めたり想像したり執筆したりするのが好きなホラー作家。