足が…!暗闇の中、私を引きこんでいたのは…【LINE怖い話 #84/私を呼ぶのは誰? 7】
友達からの奇妙なLINE、知らない人からの不思議なLINE……。普段何気なく使っているメッセージアプリに、違和感を覚えたことはありませんか?
それはもしかすると、人ならざるものが関係しているかもしれません。
連載「LINE怖い話」では、LINEにまつわる怖い話をお届けします。
河原を下り、雑木林の中で汚れたスニーカーを発見した杏奈さん。
神崎菜々さんのものだと確信した杏奈さんは、LINEで言われるままに雑木林のさらに奥へと進んでいきます。
日も暮れ、周囲が完全に暗くなり明かりがないと先が見えないような状態に。
そんな中、杏奈さんはスマートフォンのライトを使いながら神崎菜々さんの行方を捜していました。
「どこ……どこにいるの……?」
小さくぶつぶつと呟きながら、疲れている状態にもかかわらず捜索をやめない杏奈さん。
さらに進んでいくと、河と河沿いの道に段差ができはじめ、河が少し下の方に見える状態に。
土はぬかるんで滑りやすくなっており、歩くのは少々危険と言える状態です。
また、対岸はまだ浅瀬があるようですが、杏奈さんがいる側は水の色から推測してそこそこの深度がありそうです。
これでは河の様子がよく観察できないため、一度戻ってルートを変えようかと考えた杏奈さん。
そう思いながら河を見ていたその時、河の淵にある岩と岩の隙間に何かがあるのを発見しました。
「みつけた……!」
それは、ここに来る途中で見つけたスニーカーと同じものでした。岩に挟まっていて固定されていますが、水に浸かりボロボロになっています。
「おしえてあげなきゃ……」
杏奈さんはそう呟き、LINE画面を開いてメッセージを打ち始めます。
“もう片方も見つけたよ”
そう打ち終え、送信をしようとしたその瞬間、
ピピピピピピピピ!
「……はわっ!?」
突如着信音が鳴り響き、杏奈さんは驚いて思わず声を上げてしまいました。
画面を見てみると、通話をかけてきたのはまたも母親からでした。杏奈さんはすぐに通話を開始します。
「ちょっと、いくらなんでも遅いわよ。お友達だったとしても家に長居するのはよくないんじゃない?」
どうやら母親はまだ杏奈さんが友人宅にいると思っているらしく、帰宅の催促をしにきたようです。
「あ……ごめんごめん、今帰り道の途中だから。もうすぐ帰るよ」
「ああ、それならよかった。今どのへん?」
「えーっと、河原の近く」
「ああ、ならもうすぐね。もう暗いから早く帰って来るのよ」
「了解~」
そう答えて通話を終えた杏奈さん。雑木林に1人で来ているとは言えなかったため、河原の近くと答えました。一応ウソは言っていませんが、そこで杏奈さんに罪悪感と危機感が芽生えました。
「うーん。どうしようかな?」
確かにもう暗いし危ないかなという思い、これ以上進むのをためらいはじめた杏奈さん。
とりあえずスニーカーを見つけたことを報告しつつ、後は警察に任せたほうがいいと思った杏奈さんは、LINEで“なな”宛てにメッセージを送りました。
“だいじょうぶ、さみしかった、いっしょにきて”
急に連続でメッセージを送ってきた“なな”。
杏奈さんは文章の意味がわからず、困惑して首を傾げました。その次の瞬間、
「へっ!?うわあっ!」
ぬかるんだ土が少し崩れ、杏奈さんは足を滑らせてしまいました。
「っ!」
一瞬パニックになりましたが直前で冷静さを取り戻し、息を大きく吸い込んだ杏奈さん。
そのまま河に落下し、全身が水の中に消えていきました。
(うっ……対岸まで、何とか……!)
暗闇の中、水の流れる方向から対岸の場所を割り出し、着衣水泳の要領で確実に泳ぎ進む杏奈さん。スマートフォンやバッグを捨て、とにかく対岸を目指します。部活で磨かれた水泳技術と精神力が、杏奈さんの命を繋ぎとめている状態でした。
(むぐっ……!?足が……!)
泳いでいる途中、右足がやけに重い感覚に襲われた杏奈さん。
さっき足を滑らせた時にひねったかと思いましたが、そんなことを考えても仕方がないとすぐに振り払い、必死に対岸を目指して泳ぎます。
だんだんと重くなる右足に、先の見えない暗闇、凍えるような水の温度に、少しずつ余裕のなくなっていく呼吸。
杏奈さんは泣きたいほど不安でしたが、それでも必死に泳ぎました。
(お願い……!そろそろ着いて……!)
そう強く思った瞬間、伸ばした腕の前腕に大量の砂利が当たるのを感じた杏奈さん。
対岸に着いたと確信した杏奈さんは砂利に手をつき、足も地に着くことを確認すると勢いよく体を起こしました。無事に対岸まで泳ぎ切ったようです。
「はあ……はあ……!」
肩で息をしながら、自分が生きていることを実感する杏奈さん。
水のない場所までよろよろと移動し、安心感と疲労感に襲われ思わず座り込みます。
「……早く、帰らないと」
もう他人の捜索をしている場合ではない、そう身をもって実感した杏奈さんは、河沿いを登ってゆっくりと帰っていきました。
その後、びしょ濡れで、しかもスマートフォンを含めた貴重品をバッグごと紛失したまま帰宅したことで、杏奈さんは両親にものすごく怒られました。
理由を聞かれた際に「足を滑らせて河に落ちた」と杏奈さんは答えました。本当のことを言うのも恐ろしかったのです。
散々お説教を受けた後、無事でよかったと母親に泣きながら抱き着かれた杏奈さん。
そこで杏奈さんも、溺れなくてよかったという気持ちがあふれ出し、泣きながら母親を抱き返しました。
その翌日、例の“神崎菜々さん”が発見されたとテレビで報道されました。
原因は家出で、友達の家に「両親了承済み」だというウソをついて泊まっていたとのこと。
そのニュースを見て杏奈さんの両親は菜々さんの家庭環境を心配していましたが、杏奈さんは別の不安を覚えていました。
“なな”というアカウントは“神崎菜々さん”ではない。
ならば、この前までやり取りをしていた“なな”というアカウントは何者だったのでしょうか?
スマートフォンが流されてしまった今、杏奈さんが確認する術はありません……。
連載「LINE怖い話」は毎日更新中です。
(洞 怜子)
※この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは一切関係がありません
それはもしかすると、人ならざるものが関係しているかもしれません。
連載「LINE怖い話」では、LINEにまつわる怖い話をお届けします。
「私を呼ぶのは誰?」その7
河原を下り、雑木林の中で汚れたスニーカーを発見した杏奈さん。
神崎菜々さんのものだと確信した杏奈さんは、LINEで言われるままに雑木林のさらに奥へと進んでいきます。
日も暮れ、周囲が完全に暗くなり明かりがないと先が見えないような状態に。
そんな中、杏奈さんはスマートフォンのライトを使いながら神崎菜々さんの行方を捜していました。
「どこ……どこにいるの……?」
小さくぶつぶつと呟きながら、疲れている状態にもかかわらず捜索をやめない杏奈さん。
さらに進んでいくと、河と河沿いの道に段差ができはじめ、河が少し下の方に見える状態に。
土はぬかるんで滑りやすくなっており、歩くのは少々危険と言える状態です。
また、対岸はまだ浅瀬があるようですが、杏奈さんがいる側は水の色から推測してそこそこの深度がありそうです。
これでは河の様子がよく観察できないため、一度戻ってルートを変えようかと考えた杏奈さん。
そう思いながら河を見ていたその時、河の淵にある岩と岩の隙間に何かがあるのを発見しました。
「みつけた……!」
それは、ここに来る途中で見つけたスニーカーと同じものでした。岩に挟まっていて固定されていますが、水に浸かりボロボロになっています。
「おしえてあげなきゃ……」
杏奈さんはそう呟き、LINE画面を開いてメッセージを打ち始めます。
“もう片方も見つけたよ”
そう打ち終え、送信をしようとしたその瞬間、
ピピピピピピピピ!
「……はわっ!?」
突如着信音が鳴り響き、杏奈さんは驚いて思わず声を上げてしまいました。
画面を見てみると、通話をかけてきたのはまたも母親からでした。杏奈さんはすぐに通話を開始します。
「ちょっと、いくらなんでも遅いわよ。お友達だったとしても家に長居するのはよくないんじゃない?」
どうやら母親はまだ杏奈さんが友人宅にいると思っているらしく、帰宅の催促をしにきたようです。
「あ……ごめんごめん、今帰り道の途中だから。もうすぐ帰るよ」
「ああ、それならよかった。今どのへん?」
「えーっと、河原の近く」
「ああ、ならもうすぐね。もう暗いから早く帰って来るのよ」
「了解~」
そう答えて通話を終えた杏奈さん。雑木林に1人で来ているとは言えなかったため、河原の近くと答えました。一応ウソは言っていませんが、そこで杏奈さんに罪悪感と危機感が芽生えました。
「うーん。どうしようかな?」
確かにもう暗いし危ないかなという思い、これ以上進むのをためらいはじめた杏奈さん。
とりあえずスニーカーを見つけたことを報告しつつ、後は警察に任せたほうがいいと思った杏奈さんは、LINEで“なな”宛てにメッセージを送りました。
“だいじょうぶ、さみしかった、いっしょにきて”
急に連続でメッセージを送ってきた“なな”。
杏奈さんは文章の意味がわからず、困惑して首を傾げました。その次の瞬間、
「へっ!?うわあっ!」
ぬかるんだ土が少し崩れ、杏奈さんは足を滑らせてしまいました。
「っ!」
一瞬パニックになりましたが直前で冷静さを取り戻し、息を大きく吸い込んだ杏奈さん。
そのまま河に落下し、全身が水の中に消えていきました。
(うっ……対岸まで、何とか……!)
暗闇の中、水の流れる方向から対岸の場所を割り出し、着衣水泳の要領で確実に泳ぎ進む杏奈さん。スマートフォンやバッグを捨て、とにかく対岸を目指します。部活で磨かれた水泳技術と精神力が、杏奈さんの命を繋ぎとめている状態でした。
(むぐっ……!?足が……!)
泳いでいる途中、右足がやけに重い感覚に襲われた杏奈さん。
さっき足を滑らせた時にひねったかと思いましたが、そんなことを考えても仕方がないとすぐに振り払い、必死に対岸を目指して泳ぎます。
だんだんと重くなる右足に、先の見えない暗闇、凍えるような水の温度に、少しずつ余裕のなくなっていく呼吸。
杏奈さんは泣きたいほど不安でしたが、それでも必死に泳ぎました。
(お願い……!そろそろ着いて……!)
そう強く思った瞬間、伸ばした腕の前腕に大量の砂利が当たるのを感じた杏奈さん。
対岸に着いたと確信した杏奈さんは砂利に手をつき、足も地に着くことを確認すると勢いよく体を起こしました。無事に対岸まで泳ぎ切ったようです。
「はあ……はあ……!」
肩で息をしながら、自分が生きていることを実感する杏奈さん。
水のない場所までよろよろと移動し、安心感と疲労感に襲われ思わず座り込みます。
「……早く、帰らないと」
もう他人の捜索をしている場合ではない、そう身をもって実感した杏奈さんは、河沿いを登ってゆっくりと帰っていきました。
その後、びしょ濡れで、しかもスマートフォンを含めた貴重品をバッグごと紛失したまま帰宅したことで、杏奈さんは両親にものすごく怒られました。
理由を聞かれた際に「足を滑らせて河に落ちた」と杏奈さんは答えました。本当のことを言うのも恐ろしかったのです。
散々お説教を受けた後、無事でよかったと母親に泣きながら抱き着かれた杏奈さん。
そこで杏奈さんも、溺れなくてよかったという気持ちがあふれ出し、泣きながら母親を抱き返しました。
その翌日、例の“神崎菜々さん”が発見されたとテレビで報道されました。
原因は家出で、友達の家に「両親了承済み」だというウソをついて泊まっていたとのこと。
そのニュースを見て杏奈さんの両親は菜々さんの家庭環境を心配していましたが、杏奈さんは別の不安を覚えていました。
“なな”というアカウントは“神崎菜々さん”ではない。
ならば、この前までやり取りをしていた“なな”というアカウントは何者だったのでしょうか?
スマートフォンが流されてしまった今、杏奈さんが確認する術はありません……。
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(洞 怜子)
※この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは一切関係がありません
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この記事を書いたライター
洞 怜子
怖い話を集めたり想像したり執筆したりするのが好きなホラー作家。